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Kさんの梅干し



スーパーの店頭に梅と赤しそを見かける季節になりました。それを見ると、私は患者さんのKさんをなつかしく思い出します。

Kさんはいつも笑顔がステキで優しい穏やかな方でした。クリニックの前を通り過ぎる時に手招きして私を呼び、何事かと駆け寄ると、私のポケットにあめ玉をひょいと入れてくださるのでした。

お宅には立派な梅の木があって、毎年6月になると梅を漬けるのがKさんの楽しみでした。そしてご自慢の梅干しを、私たちにもおすそ分けしてくださるのです。毎年スタッフで少しずつ分けて持ち帰り、Kさんの梅干を味わうのが常でした。大きくて真っ赤な梅干しは、とても酸っぱくて顎がキュッとなります。この梅干しを誰よりも喜んだのが我が家の息子でした。「Kさんの梅干し」と呼んで、白ごはんに乗せて美味しそうに味わっていました。息子曰く、「これが本当の梅干しだ。他の梅干しは、変に甘くて美味しくない。」

ある日Kさんは入院され、梅を漬けられなくなりました。それから私はKさんの梅干しを目指して梅を漬けるようになりました。とてもKさんのように上手くできませんが、遠方へ行った息子に、梅干しとしそふりかけを送ります。

天国のKさん、梅の季節がまためぐってきましたよ。あなたのおかげで我が家も梅を味わう楽しみを知りました。本当にありがとうございます!

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